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March 17, 2021by Mamoru Kakuda

2021年2月24日、CAFCは、組成物の一成分が他成分の副生物である場合に、置換理論 (substitution theory) を適用して行われた自明性の認定を肯定するnon-precedential判決を出しました (Daikin Industries Ltd. v. The Chemours Company FC, LLC (Fed. Cir. Feb. 24, 2021)) 。

Daikin社は冷媒等に用いる3成分系の組成物の特許を有しており、Chemours 社はこの特許に対してIPRの請願を提出しました。特許の代表的クレームは以下の通りでした。

1. A composition comprising HFC and HFO, wherein the composition comprises:

1) HFC-32, HFC-125, HFC-134a, and HFC-134 as the HFC;

2) at least one of HFO-1234yf and HFO-1234ze as the HFO;

3) at least one member selected from the group consisting of HCC-40, HCFC-22, HCFC-124, CFC-115, HCFC-1122, CFC-1133, and 3,3,3-triflouropropyne as a third component.

IPR で引用された引用例Van HornにはHFC (HFC-32, HFC-125, HFC-134a, HFC-134) とHFO (HFO-1234yf, HFO-1234ze) の混合物が記載されており、さらに例えば2重量%程度の少量のバリエーションは発明の範囲であると記載されていました。また引用例Collier にはHFO-1234yfの副生物として、HCFC-115(これがCFC-115と同じ化合物であることに争いはありませんでした)やHCC-40が生じるが、副生物の完全な分離は困難かつ高価であること、追加の成分はHFO-1234yfに好ましくはトータルで最大0.5重量%含まれることが記載されていました。また、AHRI (Air-Conditioning, Heating, and Refrigeration Institute) 規格では、冷媒の純度のスペックとして不純物が0.5重量%以下であることを要求していました。特許庁審判部はこれらの引用例に基づき、以下の理由で、このクレームは特許性がないとの決定をしました。

    1. Van HornとCollierの両方が組成物の主要な用途として冷媒を開示しており、また、AHRI規格で示されているように、CollierのHFO-1234yfはVan Horn社のHFO-1234yfとほぼ同様の純度であるといえる。したがって、最大5重量%のCFC-115および/またはHCC-40を含むCollierのHFO-1234yfは、Van Hornの冷媒混合物に含まれるHFO-1234yfの合理的に交換可能な代替品であると、当業者は考えたであろう。
    2. 本発明の時点で、少なくともいくつかの塩素含有冷媒が塩素を含まない冷媒に比べて潤滑性が低下することが知られており、潤滑性が影響を受けるメカニズムに気付く状態にあった。したがって、当業者であれば、潤滑性を高めるためにCollierのHFO-1234yfをVan Hornの混合物に配合する動機があったであろう。
    3. 明細書に開示された試験結果は、クレームされた発明の全範囲について潤滑性の増加を示せていない。また、上記で説明したように、塩化物含有化合物の添加による潤滑性の増加は予想されたものである。

Daikin社はCAFCに控訴しました。

CAFCは以下の理由で特許庁審判部の認定は実質的な証拠にサポートされてると認定し、その決定を肯定しました。

    1. クレームが、公知の要素を単純に組み合わせ、それぞれが従来から知られていたのと同じ機能を果たし、そのような組み合わせから期待される以上の結果をもたらさない場合、その組み合わせは自明である。KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 416 (2007) 。Daikin社は、特定されていない冷媒の特性が予測不可能なので、自明であるとはいえないと主張するが、この主張には以下の問題がある。第1にDaikin社自身が、提案されている置換品は、Van Hornの混合物の環境、安全、信頼性の特性に予測可能な変化をもたらすと主張している。第2に、クレームされた組成物における結果的な潤滑性の増加は予測されるものであると審判部は判断した。第3に当業者であればシステム性能への影響は「些細なもの」と考えたであろうというChemours社の主張を審判部は採用した。
    2. また、Daikin社は、CollierのHFO-1234yfをVan HornのHFO-1234yfに置換することは、結果として得られる混合物のODP/GWP、安全性、信頼性、および性能に悪影響を及ぼすため、当業者であれば思いとどまるはずである、と主張するが、審判部は十分な精査のうえで、Chemours社の専門家証人の、わずかな特性の変化によって当業者がCollierのHFO-1234yfをVan HornのHFO-1234yfに置換することを思いとどまることはないであろうという証言を採用している。審判部は、この点がCollier、Van Horn、AHRI規格の記載とも一貫性があると認定している。
    3. さらにDaikin社は、潤滑性の予想外の増加という効果が非自明性の証拠になると主張している。しかし、クレームの範囲が、特に第3成分の量の範囲が、明細書に開示された潤滑性の向上のデータの範囲と一致していない、と審判部は認定しており、また潤滑性向上の効果は予測されたものであるとの審判部の認定に、Daikin社は潤滑性の向上の程度が予想外であるとの証拠を提出していない。

以上のように、組成物の一成分が他成分の副生物である場合には、置換理論が適用され、自明性が認定される場合があります。組成物の各成分の量を規定し、その範囲の中での予想外の効果をデータとともに主張することが拒絶を克服するのに有効であると考えられます。

by Mamoru Kakuda

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