2020年8月27日、米国CAFCは、クレーム用語の定義が明細書に記載されていると判断できるかどうかについて言及した判決をしています(Baxalta inc. v. Genentech, inc., Fed. Cir. 2020) 。
Baxalta社は単離抗体およびその抗体フラグメントに関する特許を持っており、この特許を侵害するとしてGenentech社をデラウエア州連邦地方裁判所に提訴しました。地裁では、抗体(antibody)、および抗体フラグメントの解釈が問題になりました。Baxalta社は、抗体は、「2つの重鎖 (H鎖) と2つの軽鎖(L鎖)を有する特定のアミノ酸配列を持つ分子」と解釈すべきであると主張しました。一方、Genentech社は抗体は、「免疫グロブリン分子の合成を引き起こす抗原かそれに非常によく似た抗原のみに結合する、特定のアミノ酸配列を持つ免疫グロブリン分子で、2つの同一の重鎖 (H鎖) と2つの同一の 軽鎖(L鎖)からなるもの」と狭く解釈するべきであると主張しました。また、Baxalta社は、抗体フラグメントは、「2つの重鎖 (H鎖) と2つの軽鎖(L鎖)を有する特定のアミノ酸配列を持つ分子の一部」と解釈すべきであると主張しました。一方、Genentech社は抗体フラグメントは、「定常領域を完全にまたは部分的に欠く抗体のフラグメントであり、すべての他の種類の抗体誘導体を除く」と狭く解釈するべきであると主張しました。
地裁は、明細書の以下の記載を、出願人が選択した「抗体」の定義であるとして、Genentech社の解釈を採用しました。
Antibodies are immunoglobulin molecules having a specific amino acid sequence which only bind to antigens that induce their synthesis (or its immunogen, respectively) or to antigens (or immunogens) which are very similar to the former. Each immunoglobulin molecule consists of two types of polypeptide chains. Each molecule consists of large, identical heavy chains (H chains) and two light, also identical chains (L chains).
地裁は、また、以下の明細書の記載をもとに、「抗体フラグメント」の解釈についても、Genentech社の解釈を採用しました(強調部分追加しています)。
The term factor IX/IXa activating antibodies and antibody derivatives may also include proteins produced by expression of an altered, immunoglobulin-encoding region in a host cell, e.g. “technically modified antibodies” such as synthetic antibodies, chimeric or humanized antibodies, or mixtures thereof, or antibody fragments which partially or completely lack the constant region, e.g. Fv, Fab, Fab’ or F(ab )’2 etc.
以上のクレーム解釈に基づき、地裁はGenentech社の製品はBaxalta社の特許を侵害していないと判断しました。Baxalta社CAFCに控訴しました。
CAFCにおけるGenentech社側の主張は以下のようでした。
- 「抗体」は明細書に記載された定義に沿って解釈すべきである。
- このように解釈すると、矛盾する従属クレームが出てくるが、それは、審査段階で審査官が見逃しただけであり、地裁で判断されたようにそれらの従属項は無効である。
- 明細書には、ヒト化抗体のように、この解釈に合わないものの合成方法も開示されているが、そのこと自体に法的問題はない。
- 審査過程でenablement rejection に対応するため、‟antibody derivative”という語を‟antibody fragment” という語に補正したが、これは、二重特異性抗体を含むantibody derivative をantibody fragmentを除いて放棄する意図であり、この解釈に沿っている。
CAFCは以下の理由でこの主張を認めませんでした。
- クレームの用語は、一般的には、明細書や審査経緯の文脈に沿って読んだときに、当業者にとっての通常かつ慣習的な意味に解釈される (Thorner v. Sony Comput. Entm’t Am. LLC, 669 F.3d 1362, 1365 (Fed. Cir. 2012) が、クレームのplainな言語に、地裁で認定されたような限定は含まれていない。また、地裁の解釈は従属項の記載と一貫性がない。Intellectual Ventures I LLC v. T-Mobile USA, Inc., 902 F.3d 1372, 1378 (Fed. Cir. 2018)で判示したように、従属項を無効にするような解釈は否定される。
- クレーム解釈のために、明細書は全体として(as a whole)考慮しなくてはならない。明細書には地裁の解釈から外れる開示があり、明細書全体でみると、地裁が「抗体」の定義として採用した明細書の記載は、定義ではなく、抗体に対する一般的なイントロダクションであると判断される。
- 審査経緯をみると、補正の際に特定の抗体の態様を放棄したという明確な宣言はない。また、もしそのような放棄があるのなら、審査官が放棄した態様を含む従属項を許可したことと矛盾する。したがって、審査経緯も、地裁の解釈をサポートするものではない。
- 抗体フラグメントの解釈のために地裁が依拠した明細書の記載は、抗体フラグメントの定義とは認められない。用語を明細書内で再定義する場合は、特許権者がその意図を明確に表明する必要がある。
クレーム解釈において、明細書を参酌する場合は、明細書の記載を全体として考慮することが重要です。また、クレーム解釈をはっきりさせるために、発明の実施態様を要件に含む従属項を追加することは有効だと思います。
by Mamoru Kakuda
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