2020年11月19日、CAFCは、類似のライセンス契約の存在をもとに、ロイヤリティ料率にentire-market-value royalty baseを適用する判決をだしています (Vectura Limited v. Glaxosmithkline LLC, et al. (Fed. Cir. November 19, 2020)) 。
Vectura社は吸入器に使用する複合活性粒子の特許を持っており、これを侵害するとしてGlaxosmithkline (GSK) 社をデラウエア州区連邦地方裁判所に提訴しました。陪審裁判を経て、特許の有効性、侵害、故意侵害が認定され、陪審員は、吸入器の売り上げに基づく3%のロイヤリティに相当する約9000万ドルの賠償金を認定しました。地裁はさらにGSK社の賠償額に関する新たな陪審裁判の請求を含む陪審裁判後のmotionを否定しました。GSK社はCAFCに控訴しました。
控訴審でのGSK社の主張のうちのひとつは、Vectura社の専門家によって提案された合理的ロイヤリティの計算には法的な誤りがあるので、損害に関する陪審裁判を新たに行うべきであるというものでした。陪審裁判において、Vectura社は、2010年の類似のライセンス (comparable license)に基づく損害額理論を提示していました。GSK 社は、このような理論を適用するには、まず、特許の対象である複合活性粒子によって、最終製品である吸入器の顧客の需要が助長されることを示す必要があるにもかかわらず、Vectura社の専門家はそれをしてない、と主張しました。
CAFCは、GSK社の主張を以下の理由で退けました。
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- 通常は、entire-market-value royalty baseが適切なのは、特許の構成要素が顧客の需要の基礎となるか、または構成部品の価値を実質的に創造している場合だけであり、entire-market-value royalty baseが不適切である場合には、按分が必要となる。しかし、十分に比較可能なライセンス (sufficiently comparable license) が適切なロイヤリティを決定するための基礎として使用されている場合には、更なる按分が必ずしも必要ではない場合がある。それは、比較可能なライセンス(または比較可能な交渉)による損害賠償論を適用すれば、場合によっては按分があらかじめ組み入れられていることがあるからである。本件はそのような場合に該当する。
- 合理的なロイヤリティ計算を行う地方裁判所は、訴訟中の特許以外の技術に対する過去のライセンスを参考にする場合は十分に注意しなければならない。特に、契約当事者の技術や経済状況の違いを考慮しなければならない。
- GSKは、(i) 2010年のライセンスには400件以上の特許権が含まれており、また、(ii) そのライセンスで設定されたロイヤリティーには、一定額以上の売上に対して上限が設定されていたので、今回のロイヤリティ算出とcomparableではない、と主張している。
- (i) の点については、Vectura社は、2つのライセンスはほぼ類似した技術を対象としていることを示す証拠を提出しており、GSK社はこの点を損なう証拠を提出していないので、2010年のライセンスに他の特許が含まれていたという事実は、Vectura社の専門家証人の比較可能性に関する理論を決定的に損なうものではない。2つのライセンスの技術上、経済上の差異に関する論争の判断は、適切に陪審員にゆだねられた。
- (ii) の点については、2016年までに被告とされた吸入器はすでに大成功を収めていたので、これは仮定の交渉におけるVectura社のレバレッジを高めたであろうから、ロイヤリティの上限を適用しないことは許される、とVectura社の専門家証人は証言した。この証言を陪審員が信用することは許される。
- 以上より、連邦地裁が、損害賠償に関するGSK社の陪審裁判後のmotionを否定しても、その裁量権が濫用されたとはいえない。
以上のように、十分に比較可能なライセンスが存在する場合は、特許の構成要素が最終製品に対する顧客の需要を助長することを示さなくとも、合理的なライセンス料の算定において、entire-market-value royalty baseを採用することができる場合があることをCAFCは再確認しました。
by Mamoru Kakuda
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