2021年4月29日、CAFCは、発明者が前職の企業で発明に重要な貢献をする研究を行なっていたので前職の企業が後の企業で完成された発明の共有者になる、という主張に対し、発明着想前の貢献は雇用者に譲渡義務のある知的財産に該当しないと判断し、これを退ける判決をしました (Bio-Rad Laboratories, Inc. v. ITC (Fed. Cir. Apr. 29, 2021))。
10X Genomics社(10X社) は、Bio-Rad 社が輸入し販売するマイクロ流体力学システム (microfluidic system) が10X社の特許を侵害するとして、ITCにその輸入と販売の差し止めを求めて提訴しました。
10X社の特許の2人の発明者は、Bio-Rad社の前身であるQuantaLife社と以下の規定を含む契約にサインしていました。
(a) Employee agrees to disclose promptly to the Company the full details of any and all ideas, processes, recipes, trademarks and service marks, works, inventions, discoveries, marketing and business ideas, and improvements or enhancements to any of the foregoing (“IP”), that Employee conceives, develops or creates alone or with the aid of others during the term of Employee’s employment with the Company …
(b) Employee shall assign to the Company, without further consideration, Employee’s entire right to any IP described in the preceding subsection, which shall be the sole and exclusive property of the Company whether or not patentable.
また、QuantaLife社を吸収したBio-Rad社との間の以下の規定を含む契約に2人はサインをしていました。
All inventions (including new contributions, improvements, designs, developments, ideas, discoveries, copyrightable material, or trade secrets) which I may solely or jointly conceive, develop or reduce to practice during the period of my employment by Bio-Rad shall be assigned to Bio-Rad.
2012年4月、2人の発明者はBio-Rad社を離れ、一緒に10X社を設立しました。10X社は、2012年8月までに、マイクロカプセルをカプセルの仕切りや液滴の仕切り(それぞれカプセル・イン・カプセル、カプセル・イン・ドロップレットのアーキテクチャと呼ばれる)に入れてバーコーディングに使用することに焦点を当てたいくつかの仮特許出願を提出しました。2013年1月までに、2人の発明者たちは、”gel bead in emulsion” (GEM)と呼ばれる別のアーキテクチャを着想していました。GEMアーキテクチャは、「核酸、DNAまたはRNAを、バーコードを液滴に届けるために使用されるゲルビーズとともに液滴に分割し」、「刺激を用いてゲルビーズからバーコードを放出する」というものでした。本件の対象となる特許はのクレームは、すべてこのGEMアーキテクチャを含んでいました。
ITCの審理におけるBio-Rad社の抗弁のひとつは、Bio-Rad社がその特許の共有者であるというものでした。Bio-Rad社の抗弁に対して、ALJは、Bio-Rad社は、主張された特許の「発明の着想」が、発明者がBio-Rad社を退職する前に得られていたものであることを示しておらず、また、2人の発明者が締結した契約は、単に将来の発明が「雇用期間中に行われた仕事に基づいているか、それから発展したもの」であるからといって、将来の発明を譲渡の対象にしているわけではない、としてBio-Rad社の抗弁を拒絶し、さらにITCもALJの結論を肯定しました。ITCは、特に以下のように認定しました。
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- 2人の発明者はBio-Rad社、QuantaLife社にいるときには、主にドロップレット・イン・ドロップレットアーキテクチャについて研究しており、その後、研究を本件対象の発明にシフトさせた。
- 2人の発明者がBio-Rad社、QuantaLife社で働いていたときに取り組んだアイデアが、問題となっている特許の出願日までに公開された先行技術の範囲に含まれていないことをBio-Rad 社は証明していない。
- 問題となっている発明のコンセプトは、いくつかの要素を組み合わせることで、核酸サンプルの入った液滴の中にバーコードを届けるゲルビーズが作製され、バーコードは放出可能にゲルビーズに取り付けられていることである。
Bio-Rad社はCAFCに控訴しました。
控訴審において、CAFCはBio-Rad社の主張を下記の理由で否定しました。
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- Bio-Rad 社自身、契約の譲渡条項は、知的財産 (intellectual property) に適用されることを認めている。例えば、QuantaLife社と発明者との契約には、” Employee’s entire right to any IP described in the preceding subsection” という文言があり、この “right to” というフレーズは譲渡の対象が知的財産であることを示唆するものである。したがって、最もstraightforwardな解釈をすると、この譲渡は、知的財産に限られている。そして、知的財産、すなわち、発明はconception (着想) の時点までは存在しない。
- Bio-Rad社は、FilmTec Corp. v Hydranautics, 982 F.2d 1546, 1548 (Fed. Cir. 1992) や of Trustees of the Leland Stanford Junior Univ. v. Roche Molecular Sys., Inc., 583 F.3d 832, 837 (Fed. Cir. 2009) を挙げて、重要な貢献 (significant contribution) があれば、譲渡の義務が生じると主張している。しかし、FilmTecでは、発明者は契約終了後に発明を着想したのではなく、単に発明を洗練させたにすぎない点で本件とは異なる。Stanfordは、元従業員に関する件ではなく、また譲渡の対象が、“right, title, and interest” in the ideas, inventions, and improvements he conceived or made “as a consequence of” his work at Cetusとなっており、広くなっている点で本件とは異なる。
- 譲渡契約は、カリフォルニア法を準拠法としているが、カリフォルニア法では、policyとして、元従業員の職業活動を制限する雇用契約に対して、大きな制約を認めている。ここで上記のような契約のstraightforwardな読み方よりも広い読み方を採用して、カリフォルニア法のpolicyに整合するかどうか検討することは妥当ではない。
- Bio-Rad社は、すくなくとも3つの点は、QuantaLife在籍時に開発されたもので、公知でなかったと主張しているが、少なくとも発明の着想時点ではそれらの点は公知であるか、availableであったと認定したITCの決定にsubstantial evidenceがないとはいえない。
このように、本件では、雇用契約において雇用者への譲渡対象を知的財産にしている場合は、発明の着想前の貢献は譲渡対象にならないと判断されています。
by Mamoru Kakuda
Mamo’s extensive background includes a tenure of over 20 years as an IP professional in a renowned Japanese chemical company. During this time, he developed an elite insight into Japanese companies’ operations and IP practices. Consequently, Mamo is esteemed for his astute counsel which guides his diverse clientele on their best course of action, obtaining patents effectively and efficiently.