2021年4月16日、CAFCは、発明の優先日時点で実施可能でない引用文献だけを基礎にしたのではその発明を自明とすることはできない、という判断をしました (Raytheon Technologies Corp. v. General Electric Co. (Fed. Cir. Apr. 16, 2021))。
GE社は、Raytheon社のガスタービンエンジンに関する特許に対して、IPRの請願を提出しました。Raytheon 社の特許の特徴は出力密度の範囲であり、従来技術よりも遥かに高いとされていました。出力密度は、海面離陸推力をエンジンタービンの容積で割ったもので定義されていました。
IPRの請願において、GE社はRaytheon 社の特許発明は、Knip 文献からまたは、Knip 文献をGliebe 文献と組み合わせることにより、容易に発明でき、特許されるべきでないと主張しました。Knip文献は、1987年のNASAの技術メモであり、複合材料を組み入れた想像上の進歩的エンジンのすぐれたパフォーマンスに関するものでした。そのような複合材料はRaytheon社の特許の優先日時点で得られていないことに争いはありませんでした。Knip文献には、出力密度に関する明示の記載はありませんでしたが、GE社は開示されたパラメーターから当業者が出力密度を導出することができる、または出力密度はresult-effective variable であるので、当業者が推力とエンジンタービンの容積をmodifyしてRaytheon社の特許発明に至るのは容易であると主張しました。
IPRがinstituteされたあと、Raytheon社は、クレーム3と16以外をdisclaimし、その結果、引用例として、Knip文献だけが残ることになりました。Raytheon社はクレームされた出力密度に基づいてクレーム3と16の特許性を主張しました。Raytheon社の主張のひとつは、Knip文献に開示されたパラメーターはRaytheon社特許の優先日には得ることのできない革新的な材料に基づくものなので、Knip文献の開示からは当業者がクレームされた発明を作ることができない、というものでした。
GE社は、その革新的材料がRaytheon 特許の優先日時点で得られていなかった点については争わず、Knip文献が実施可能であるかどうかは、Knip文献をもとに当業者が特許されたエンジンをundue experimentationなしに作れるかどうかに無関係であると主張しました。
特許庁審判部は、Knip文献には、クレーム1で定義された出力密度を当業者をクレーム1の範囲に決定できるような十分な情報が開示されているので、Knip文献は実施可能であると判断したうえで、Raytheon社特許のクレーム3と16はKnip文献から自明であり、特許されるべきではないという判断を下しました。さらに、たとえKnip文献の出力密度がクレームの範囲でなくとも、出力密度はresult-effective variableであると判断しました。Raytheon社はCAFCに控訴しました。
CAFCは、以下の理由で、特許庁審判部の決定をreverseしました。
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- クレームがobviousであるためには、当業者が全体としてクレーム発明を作成し、使用することができなければならない。一般的には、103条のobviousnessを主張するための引例はそれ自身実施可能である必要はないが、クレーム発明を実施可能にするための他のサポート証拠がない場合は、その103条引例のobviousnessに依拠する開示部分は実施可能でなければならない。
- 特許庁審判部は、出力密度をundue experimentation なしに決定するのに十分な情報をKnip文献が提供しているかに注目しているだけであり、Knip文献がクレーム発明を実施可能にするかどうかについては判断していない。GE社は、当業者が記載された出力密度でクレームされたターボファンエンジンを製造できたことを証明する他の証拠を提示していない。対照的に、Raytheon社は、実施可能でないことを示す、広範で反論の余地のない証拠を提出した。当業者がKnip文献の高度なエンジンを物理的に製造することができないというRaytheon社の証拠は、Knip文献が当業者がクレームされた出力密度を達成できる理由としてGE社が提示した唯一の証拠であったことを考えると、決定的である。
- 仮に、出力密度やその他の性能特性がresult-effective variableであるという特許庁審判部の判断が正しかったとしても、GE社の主張は、当業者が「出力密度を最適化するためにKnip文献のエンジン推力やタービン容積を変更する」ことを前提としている。当業者がKnip文献のエンジンを作れないのであれば、当業者は必然的にその出力密度を最適化することはできない。
以上のように、発明の優先日時点で実施可能でない可能性のある文献をもとにして自明性を主張する場合は、クレーム発明を実施可能にする他の証拠を併せて提出することが推奨されます。
by Mamoru Kakuda
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