water-1945991_1280.jpg
August 27, 2020by Mamoru Kakuda

2020年8月3日、米国CAFCは、審査中に行った補正の背景にある理由が、問題になっている均等物とtangentialな関係にあるので、この補正によっては均等論の適用は否定されない、と判示する判決(Bio-Rad Laboratories, Inc. v. 10X Genomics Inc. (Fed. Cir. 2020))をしました。

Bio-Rad社は生化学反応に用いる流体の微視的液滴を形成するシステムと方法に関する特許を所有しており、その特許に基づいて、10X社を特許侵害でデラウエア州連邦地裁に提訴しました。その特許のクレームは、フッ素化されていない(non-fluorinated) マイクロチャンネルと、フッ素化された(fluorinated) 界面活性剤を含むキャリア液体とを構成要件に含んでいました。Bio-Rad社は、その特許の審査中、引例を克服するためにマイクロチャンネルがフッ素化されていないことおよび界面活性剤がフッ素化されていることを限定したうえで、引例には、マイクロチャンネルとキャリア液体とが化学的に区別されることは開示しておらず、むしろ引例はマイクロチャンネルをフッ素オイルでコーティングし、フッ素化された界面活性剤をキャリア液体に用いることを開示しているので、引例のマイクロチャンネルとキャリア液体とは反応する可能性がある、と主張していました。

10X社の製品はマイクロチャンネルに0.02%の量のフッ素を含むコーティング樹脂を含むものでした。10X社は、その量のコーティング樹脂は製品の機能には関係しないことを認めていました。地裁は、陪審員裁判で、10X社の製品はBio-Rad社の特許に文言上は侵害しないが、均等論上の侵害があると、認定しました。10XはCAFCに控訴しました。

控訴審で10X社は、審査中の補正によって、最初の限定(限定のないマイクロチャンネル)と補正後の限定(フッ素化されてないマイクロチャンネル)の間のすべての領域について発明者は放棄したのであって、審査中の禁反言により、均等論は適用できない、と主張しました。特に、10Xは、引例の開示は10X社の製品を含むものなので、補正はtangentialではない、と主張しました。

また、10X社は、製品には、クレーム要素の均等物が含まれていないので、Claim Vitiationの原理により、均等論は適用されない、と主張しました。特に、10X社は、‟fluorinated”と‟non-fluorinate”とは正反対(diametric opposite)であるので、フッ素化されたマイクロチャンネルがフッ素化されていないマイクロチャンネルと均等であるという議論は、「フッ素化されていないマイクロチャンネル」というクレームの限定を無効化(vitiate)するものである、と主張しました。

CAFCはこの主張を認めませんでした。

まず、Bio-Rad社は、マイクロチャンネルとキャリア液体とが化学的に区別されることを明確化するために補正をしたのであって、名目上に過ぎない程度のフッ素を含むマイクロチャンネルは、キャリア液体と化学的に区別されているとはいえないので、補正の理由は、問題になっている均等物とtangentialな関係であると判断しました。特に、発明者が「マイクロチャンネルがフッ素化されていない点」を追加補正したという事実は、同時に「キャリア液体に含まれる界面活性剤がフッ素化されている」という点についても追加補正されているという文脈で考慮されるべきであると、しました。

さらに、「引例の開示は10X社の製品を含むものであり、補正はtangentialとは言えない」、という10X社の主張に対しては、ここでの問題は引例がフッ素化されたマイクロチャンネルを開示しているかどうかではなく、引例が反応に寄与しない程度にフッ素化されたマイクロチャンネルを開示しているかどうかであり、引例はそのようなマイクロチャンネルを開示していないので引例の開示が10X社の製品を含むとは言えない、として10X社の主張を退けました。

なお、CAFCは、補正の理由が、問題となっている均等物とtangentialな関係であるかどうかは、ケースバイケースで判断すべきであり、最近の判例である、Amgen Inc. v. Amneal Pharmaceuticals LLC, 945 F.3d 1368 (Fed. Cir. 2020)やEli Lilly v. Hospira, Inc., 933 F.3d 1320 (Fed. Cir. 2019)と本判決とは矛盾しないと付け加えています。

Claim Vitiationの議論について、CAFCは、クレームと正反対の要素を被疑製品が含むことにより均等論の適用が難しくなる(Brilliant In-struments, Inc. v. GuideTech, LLC, 707 F.3d 1342 (Fed. Cir. 2013))が、均等の判断は、”vitiation”などのラベルによるのではなく、クレーム限定の適切な評価と、被疑製品に存在する相違のsubstantialityによる(Cadence Pharm. Inc. v. Ex-ela PharmSci Inc., 780 F.3d 1364 (Fed. Cir. 2015))、と説明し、10X社の主張を退けています。

均等論の適用において、補正の理由が被疑製品とtangential関係にあるかどうかを検討するときには、引例と区別するためにその補正によりどのような機能を実現しているのか、そして被疑製品はその機能を発揮するかどうか、という点を検討する必要があると考えられます。

by Mamoru Kakuda

Mamo’s extensive background includes a tenure of over 20 years as an IP professional in a renowned Japanese chemical company. During this time, he developed an elite insight into Japanese companies’ operations and IP practices. Consequently, Mamo is esteemed for his astute counsel which guides his diverse clientele on their best course of action, obtaining patents effectively and efficiently.