2021年3月9日、CAFCは、単一の要素が複数の要素に置き換わっている場合に、均等論におけるVitiation Doctrineは適用されないと判断する判決を出しました (Edgewell Personal Care Brands v. Munchkin, Inc. (Fed. Cir. Mar. 9, 2021))。
Edgewell社は使用済みおむつを入れるバケツシステムのビジネスをしており、バケツの中に配置され、使用済みのおむつを包むカセットのデザインに関する特許を有していました。Edgewell社はカセットの特許2件を侵害するとして、Munchkin社を連邦地方裁判所に提訴しました。Munchkin社はEdgewell社バケツに合うカセットのリフィルを販売していました。
地裁では、それぞれの特許について、クレーム解釈が行われました。Edgewell社はそのクレーム解釈に基づいて、一方の特許(’420特許)に対しては文言侵害を、他方の特許(’029特許)に対しては均等論に基づく侵害を主張していました。Munchkin社は両方の特許について非侵害のサマリージャッジメントを求め、地方裁判所はそれを認め、非侵害の判決を出しました。Edgewell社はCAFCに控訴しました。
まず、’420特許に関しては、カセットの容器(receptable)が中央開口底部に隙間(clearance)を有している点が特徴でした。クレーム解釈における論点は、その隙間がカセットがバケツに普通に設置された状態で、カセットとバケツの他の構造との間に実際に隙間があることが必要がどうかでした。地裁では、カセットがバケツに普通に設置された状態でも隙間が必要であると解釈し、この解釈に基づいて、Munchkin社のカセットは、’420特許を侵害していないと認定していました。
これに対して、CAFCは、(1) ‘420特許は装置特許であって、機能的なクレームではないので、どのように使われるかが侵害/非侵害に影響することは適正ではない、(2) 明細書を全体で見ると、カセットとバケツとが係合して隙間をなくす形態を排除しているとは認められない、との理由で、カセットがバケツに普通に設置された状態では、隙間は必要ない、とクレーム解釈しました。CAFCはこの判断に基づいて、地裁判決を取り消して地裁に差し戻し(vacate and remand)しました。
一方で、’029特許に関しては、カセットが円環状のカバー(annular cover)を有していることが特徴で、そのカバーは “tear-off outwardly projection section”を有していました。地裁は、円環状のカバーについては、「単一の構造からなるリング系のカバー」と解釈し、“tear-off outwardly projection section”に関しては、「円環状のカバーの他の部分と同じ単一の構造の一部として形成され、引きちぎることが可能な部分」と解釈しました。Edgewell社はカバーが2つの部分に分かれているMunchkin社のカセットに対して、均等論による侵害だけを主張していましたが、地裁は、単一の構造を複数の構造に置き換えると、この限定を無効に(vitiate)して、無意味にするので、合理的な陪審員であれば、均等論上の侵害を認めないであろうと認定していました。
CAFCは、地裁のクレーム解釈は正しいと認定しましたが、「この置き換えは、この限定を無効に(vitiate)して、無意味にするので、合理的な陪審員であれば、均等論上の侵害を認めないであろう」という認定には以下の理由で誤りがあると判断しました。
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- 裁判所は、クレームの要件が、あるかないかの2値的選択であると特定することによってこの問題を手っ取り早く片付けることに、慎重でなくてはならない。均等論の決定は、vitiation というラベル貼りによるのではなく、クレームと被疑品との差異の適正な評価による。
- 地裁は、実質的に同一の結果を達成するために実質的に同一の方法で実質的に同一機能を発揮しているかどうかを決定する証拠を評価する代わりに単一の要素と複数の要素が2値的選択であると評価した点で誤っている。
- Edgewell社の専門家証人は、function-way-result testの適用について、詳細に証言しており、陪審員が解決すべき真正な事実問題が生じている。
以上の理由で、CAFCは地裁判決を覆して、地裁に差し戻し(reverse and remand)ました。
このように、vitiationの適用によって、均等論が否定されることはあり得ますが、vitiationの適用に裁判所は慎重です。特に、単一の要素と複数の要素が2値的選択であるので、vitiationによって、均等論は適用できないという議論は難しいと思われます。
なお、このケースでは、1件の特許にはvacate and remandが、他方の特許にはreverse and remand が適用されており、vacate とreverseの使い分けの1例になっています。’420特許では、クレーム解釈が否定されましたが、新しいクレーム解釈に基づいて同じ結論 (summary judgement によって非侵害)が出る可能性があリますので、vacate されていますが、’029特許では、陪審裁判を行わずsummary judgementで決定したことが地裁のエラーであって、差し戻し審で、同じ結論 (summary judgement によって非侵害)が出る可能性はありませんので、reverseされている、と考えられます。
by Mamoru Kakuda
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